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2008年06月08日

●欧州選手権開幕と憂鬱な放課後

初日のスイスvsチェコ、ポルトガルvsトルコと、まるで「欧州サッカーの見本市」を図ったかのような組み合わせ。
前者のサッカーにはミッドユーロのいかにもコレクティブな組立で、特に攻守にナタで敵の骨を叩き潰すような迫力があるし、後者は欧州の東と西の端同士で、ちょっと南米に似た独特にクセのあるドリブルを中心としたサッカー。いずれにせよ充実した内容で、しかも色(特長)のハッキリしたサッカーは見ていて楽しいねぇ。
では、われらが岡田ジャパンのサッカーの色はと考えると・・・、気分も内容もどんよりネズミ色です。

(以下映画ネタばれあり。しかも内田けんじ「アフタースクール」は先にストーリーを知ってしまったら何の意味もない映画なので、まだ未見で今後見る予定の方はぜったい以下を読まないようにしてください!)

この映画がある意味で良くできているのは、設定をたった一つ追加するだけで「コメディ」が(「それでもボクはやってない」みたいな)「現代社会の悪夢をリアルに描いた問題作」にコロッと変貌するあたりだ。モジャモジャ頭で生徒に慕われている主人公の中学教師(大泉洋)に「じつはロリコンだった!」という属性を付加するのである。

プロットをまとめると、これは要するに一組の男女を追いかけるヤクザ(伊武雅刀)もやさぐれ探偵(佐々木蔵之介)も、じつは誰もが警察の捜査の掌で踊っているだけだった、というオチになる。しかも率先して警察の手先となるのが、平凡な中学教師と善良なサラリーマン(堺雅人)。すでにこの設定に対して観客は、一般市民が警察と一体となって互いに監視し合う現代の「監視社会」の悪夢を感じ取ってもいいのだけれど・・・。
さらに唖然とすることには、結末でヤクザの片棒を担いで密輸をしていた会社社長が逮捕されるのが「児童ポルノ」の「単純所持」(しかも警察のフレームアップによって!)なのである。なぜ社長の渡されたDVDが「児童ポルノ」だと特定できるのかというと、単なる「猥褻物」ならば「頒布」か「陳列」する意図がない限り逮捕の要件にならないはずだからだ。この推測に根拠がある(おそらく監督は意図しているはずだ)のは、映画の中で裏ロリータDVDのやり取りが行われ、しかも中学教師の荷物に「ミッドナイト・エクスプレス」状態でそれが紛れ込んでいるからである。まあ、児ポ法はまだ改正施行されておらず、中学教師はたまたまロリコンに関心がないのだけど。

映画の最後で、中学教師は(捜査に協力したお陰で)幼なじみの美女(常盤貴子)と結婚できることになる。逮捕された探偵が「おまえはなぜ警察にここまで協力するのだ?」とか問うと、中学教師は「おまえのようなやつは学校によくいるよ。おまえは学校がつまらないと思っているだろうが、つまらないのはおまえ自身だ」(大意)などと言い放つのである。
実際、警察のイヌがこれほど偉そうな説教をかます(しかもそのことに何のアイロニーもない)映画というのは、おそらく前代未聞だろう。学校を卒業して(アフタースクール)社会に出ても、ヤクザや探偵といった社会の底辺の「負け組」が不幸なのは「自己責任」だ、と教師が何の衒いもなく説教することについて、さらにその科白に何の疑問も抱かない観客に対して感じるのは、むしろ果てしない脱力感である。

この映画を見たマイノリティたち、変質者やゲイや左翼といった連中には、おそらく上記の感想に共感してもらえるんじゃないかという気がする。ただそれ以外の、自分が善良な「市民」である信じて疑わない人にとっては、ほんとうに何の意味もない「言い掛かり」なのか。
もしこの中学教師が、警察から同じ手口で脅迫されていたとしたら? 自分の手荷物に「児童ポルノ」を紛れ込まされ、それを理由に逮捕すると脅されていたとしたら?
少なくとも、ホンモノのヤクザ相手に一般市民が平然とお芝居を続けるという不自然な設定を納得させるためには、「美女を守りたい」という単純な善意では足りないと(マトモな映画監督なら)考えるはずである。にもかかわらず観客があまりそういう類の疑問を抱かず見過ごしてしまうのは、最初から冗談としか思えない伊武雅刀のヤクザとタレント大泉洋の明るいキャラの貢献であり、その意味ではTVを活用したなかなかこずるいキャスティングの手腕なのだ。「こずるい」というのは、それがまったく映画の出来自体とは関係ないからであり、しかもこうした「言い掛かり」を予測した上でそれを糊塗するための仕掛けにすぎないからである。だから映画としては、これは最初から底が割れているのだが、しかし今ならこの程度でも「出来が良い」と感心されてしまう。
つまり、あらゆる意味で内田けんじ監督の計算の勝利なのである。こーゆー映画にはキネ旬ベスト1とか日本アカデミー賞あたりをやっておけばいいんじゃないかと思う。