« 5月になっちゃった; | メイン | シーズンオフ »

2008年05月11日

●ゴダールはDVDで見る?

昨日、ある方から「ゴダールの映画ってDVDで見た方がいいって聞いたんだけど、どうなんですか?」と訊ねられた。
いちおう昨年ゴダール論を公表した者としては真剣に考えてみたけど、しかし結論としては「DVDは所詮DVD」にすぎない、とボクは思う。

たとえばゴダール80年代の傑作の一つである『右側に気をつけろ』は、冒頭いきなり耳をつんざくような電話の呼び鈴で始まる。
映画館で見た経験のある方なら誰でも(爆音上映でなくても)、あの、頭蓋骨から身体じゅうの骨まで共鳴するような、不快なまでの「ジリリリリリ」という音には強烈な印象を受けたことだろうと思う。
じつは昨年、ボクはあれをもう一度個人的に体験したくてDVD版を買い、ヘッドホーンをしてTVを最大音量にして見てみたのである。
しかしその音響は、残念ながら到底映画版のそれに及びもつかないものだった。
フランソワ・ミュジーによる、映画の観客がまるで宇宙空間にいるような澄み切ったエッジの立った音響空間(って、宇宙で音は聞こえないわけですが…)と比較すると、真剣と竹光くらいの違いがある。
まるっきりエッジがない。音が切れない。もやもやしていて気色悪い。
これは、もしかしたらDVDにデータを落とす際に(ある種のCDみたいに)ある周波数以上をカットしているのかもしれない、とさえ感じられたのである。

周知のように80年代以降のゴダール作品とは、要するにフランソワ・ミュジーの音響設計に尽きるといってもいい訳で、それがメーカーの配慮(都合)で勝手に家庭のTV鑑賞用に当たり障りがないような音響に変更されているだとすれば、厳密に言えばそれはもはやほとんどゴダールの映画「ではない」。
ゴダールがどこかで言っていたとおり、ビデオ(DVD)は所詮ファラオの財宝(思い出)でしかないのである。

(5.20追記)
某映画会社に勤める友人よりメールをいただく。
理論上、フィルムについている光学の音データは、DVDより遥かに劣る再現性しか持たないらしい。
彼による難しいスペックの解説はここでは抜きにして、たとえば「20~30畳の広さで、音響的に優れた部屋で、しかも200万円ぐらいのサラウンドシステムで聴くと、実はそこいらの映画館より遥かに良い音がする」のであり、従って「DVDの音をヘッドフォンで聴いて判断するのは、あまりにも早計というもの」なのだそうである。
・・・なるほど。
原理的には、ゴダール映画もDVDの方が良い音が出る可能性があるらしい。
従って、上の感想はわが家のぼろっちいTVで見た場合、に限定しておく。
(しかし、現実的にはゴダール映画のポテンシャルを発揮できる、そんな理想的な音響ルームを持ってる家がどれほどあるのだろう? という気もするのだけど。)